水竜クーと虹のかけら

第一部・01−4 「夢に見た世界」
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 そして、クーにとって、いや…ランバルトにとって待ちに待った昼がやって来た。

 ランバルトは計画が上手くいった事に胸をで下ろしている。さきほど、親竜バオスクーレに報告に行った時はクーの軽率さに絶望したものだが、どうやら寸前すんぜんで話さなかったらしい。

 とにかく、クーを外にさえ出してしまえばランバルトの計画は半分以上は成功なのだ。外の世界にあこがれていたクー。閉じ込められていたに等しい彼女が一度でも外に出てしまえば、もう神殿にとどまる事などできないだろう。
 天井というさえぎる壁のない広い世界。息の詰まるようなこれまでとはまったく違う本物の世界。……一度それを目にすれば、いかに親竜がとがめようとも、快活かいかつなクーがそれを我慢できるとは、とても思えなかったからだ。

 そしてなにより重要なのが友達だ。外の世界には人間が暮らしているはず。そんなのはクーが人間と竜とのハーフである事を見れば簡単な答えである。…だとすれば、当然、クーと年齢の近い子供もきっといるはずだ。きっと自分達が生きていたあのくさった世界とは違うはずだろうから、その点ではのぞみはある。

 問題はクーを近隣の地へと跳躍ちょうやくさせるため、力を使い”ゲート”を開いた後の事だ。
 それを最小の力で行い、親竜にバレるまでの時間をかせがなければならない。一瞬で開いてクーを導き、閉じる必要がある。
 もしそこでバレなくとも、父竜がクーの様子を見に部屋までくればそれで終りだ。……これは運の勝負であり、あまりにも馬鹿げた作戦。成功の保証などまったくない、とてつもない賭けになえるだろう。最悪の場合、正体を見破られて瞬殺されてもおかしくはない。

 しかし、もう覚悟を決めているのだから考えても仕方が無い。たとえ天命を運に任せたとしても、あの親竜を敵にしたとしても、今更やめる事で事態が進展する事はないのだから。


 ───そろそろクーが食事を終えて部屋に戻ってくる。
 クーが昼時だけ、ペンコを食堂に連れていかないというのはわかっていた。どうやら、親竜バオスクーレにペットは一日二回しか食事をしないと言われていたためらしい。多分だが、それはしつけの問題で、ヌイグルミを食卓に上げたくないのが本音なのだろう。
 …だが、ランバルトにとっては、それがかえって好都合だったため、その短い間に準備を整える事ができた。あとはクーが戻るのを待つのみ……。

 部屋の中央には、クーが立てる程の円を描いてある。そこには次の行動手順を示すための別の手紙をおいてあった。ペンコを抱いて円の中心に立ち、目をつぶれば行き来できる、と。


「ペンコさん、ただいまですよ! さー、行くです! ───…あ、このお手紙だ !」
 予定通りにクーが手紙を見つけて再び喜び、ペンコを抱きしめる。そしてその内容に書かれた指示の通りに円の中心へと立った。

 あとは運を味方につけて跳躍ちょうやくするのみ…。ランバルトは意識を集中させて、もてる力を一点に絞る。

 ランバルトもこの数日、ただ大人しく過ごしていたわけではない。自身の力の確認をすると共に、おぼろげだが確かに感じる人間だと思われる微弱な力。その数や位置を特定していたのだ。

 不規則に動く複数の生体エネルギーを感知し、その近隣を目標到達座標とする。自らが持つ境界を司る力を発現。神の力の及ぶこの神殿から外へ、空間をへだてた人の住む陸地へと跳ぶ。
 かつてランバルトはこの跳躍を日常的に行っていた。彼女にとって空間跳躍とは、手足を動かすのに等しい当り前の行動であったからだ。そしてまた、その力を用いて立ち塞がる敵の全てをほうむってきた。

 【海原と境界を支配する魔神】…。彼女がその二つ名で呼ばれていたのは、空間と空間の狭間はざまを開く力を持っていたからだ。境界の出入り口を思うがままに作り、閉じ、あやつる。
 海の彼方に見える水平線。それは天と海とを上下でまっぷたつに分ける境界である。そこからなぞらえて、付けられた名がこれだった。ランバルトやその姉妹達に対する過去の扱いはあまりにむごいものではあったが、それでもランバルトは、この名だけは気に入っていた。

 彼女はいま、その力を使う。
 遥か過去に別たれた姉と妹に会うために。

 かしこ聡明そうめいな姉に会うために、
 可愛くしとやかな妹に会うために。

 命の危険をしてまで、その力を顕現けんげんさせる!



 クーの立つ小さな円を限定とした、最小限度の力場を発生させ空間を開く。この円を入り口とし、空間を隔てた先へ、指定座標を着地点という出口として跳躍する。───この間、わずかコンマ03秒。

 まばたきさえも遅い、その刹那せつなの間だけ力を使う!





 発動と同時に、ほんの一瞬だけクーの意識は混濁こんだくする。今まで感じた事のない浮遊感。

 だけど、クーはじっと目をつむり、耐えていた。
 お友達に会いたかったから、外の世界に出たかったから、ペンコを強く抱きしめて、じっとそれに耐えた。まだ見た事のない世界が目の前にある。願う世界が待っているのだから! 一生懸命に目を瞑っていた。

 体に感じるものは何も無い。ただ、願うだけのクー………。






 無音。
 何も聞こえない。










 ただ、必死に目を閉じて待つ幼子に、今までに感じた事のない感覚がおとずれた。

 それは風。




 我が家たる水竜神殿では吹く事のない。ただの風。
 父が団扇うちわあおいでくれた時ぐらいしか感じた事のない風だ。

 しかし今、クーの身には、かつてない心地さとなって、その身に風を受けていた。
 団扇なんかじゃなく、全身に感じる初めての感覚。風がいで、髪をさらっていく感覚…。




「………あれ? これ……風…が吹いてるですか?」
 神殿とは違う。…そう感じて、おっかなびっくり目を開いていくクー。その目の前には、昔から、ずっと前から望んでいたものが広がっていた────。



 一面の若々しい緑の平原は、広く遠くへどこまでも広がり、吹き抜けた涼やかな風が若草の絨毯じゅうたんを凪いでいく。
 足元には色とりどりの花。千差万別に色を宿した花弁広がる花々が、ただ美しくたたずんでいる。

 そしてクーの右手側には”山”があった。とてつもなく大きいその土盛りは、神殿の柱よりも、もっともっともっともっと、例えようもない程に大きい。
 そして、山には串のように無数に突き刺さる、細く長い”木”というものがある。…いや、あれが生えているというものなのだろう。そしてそれぞれが濃緑な葉をしげらせ、上へ上へと葉を広げている。






 ───そして、最も素晴らしいのは、空だった。





 これまで望んでいた、海水に遮られる事のない天と空。
 どれだけ目をらしても、どこまでも青く続く果てしない空、右にも左にも天井という限界はなく、どこまでも広い。限りなく永遠の空。
 白いもやのようなもの、あれが雲。そして何よりも輝く天の光源、そのいただきで輝くあれが……太陽。温かく、まばゆく輝き照らすのは、万物に生命の力を宿す唯一無二の光。本物の太陽だ。

 我が家の2階に安置されている太陽ちゃんとは比べ物にもならない輝き。どんな宝石よりも強く激しいその力強さに、クーはただ目を細める以上に感想を述べる事ができない。



 これが、……この全てが”自然”というもの。
 空と太陽、そして山があり、草があり、花があり、地面がある。風がある。


 この地に生きる人々にとって、それはなんでもない事なのかもしれない。
 それがあるのが当然なのかもしれない。

 ………だけど違う。あるだけで嬉しいのだ。そこに存在しているだけで、めぐみを感じるのだ。
 ただ目の前に自然を感じるだけで、心がいっぱいになっていく。



 それらは、いとも簡単にクーの中での常識を、その全てをくつがえしていく。それが外の世界。想像をはるかに超えたもの、クーが知る事の無かった自然のままの世界…。


 ……気づかないうちに涙がこぼれていた。


「あれ……おかしい…ですよ。……クー……泣いてる…ですよ。」
 いつのまにか、クーは涙を流していた。
 夢が目の前にある。今まさに、目の前にある。
 その素晴らしさにただ震える。あまりの美しさに打ち震えるしかない。



 クーはこれまで、我が家にある数え切れない程の本に目を通してきた。なにせ時間だけは沢山あったので、父の持つ旧世界の本を拝借し、写真付きの本をながめては外の世界へと思いをせていた。

 でも、目の前にあるそれらは本で見たよりも、もっともっとキレイで、比べるまでも無く美しい。
 いや、比べられるはずがない。


 世界は、あまりにも美しい。
 だって自然は、こんなにも生きづいているのだから……。




















 ───それからクーは、ただ手当たり次第に自然というものを感じていた。

 風に身をゆだね、大地に手を差し伸べ、どろをこねくりまわし、花をでる。
 鳥がいる。虫がいる。池には魚がいる。

 周囲にまばらに生えている木々。そのこずえより降りそそぐ輝きが心地よい。草の上を歩く感触がたまらない。ゆるやかな川の水が流れるのが面白い。


 何もかもが新鮮で、声にさえならなかった。

 人は……、本当に感動した時、本当に嬉しい時、それを言葉にする事ができない。
 感動すべきものが一つであれば、あるいは歓喜の声を上げられたかもしれない。しかし、目の前の全てと、身に受ける全てに感動を得たとしたら、声程度で喜びを表現する事はできるはずもない。

 いま、クーは新たな世界を手に入れた。だから、それを感じるだけで精一杯だったのである。


 …そんな中で、クーの近くで座らされているランバルトも少なからず驚いていた。自分達が滅ぼした旧世界はこのように緑があふれた大地ではなかったからだ。

 まず自然などというもは欠片もなかった。大地は灰色の固い道でおおわれ、所せましと記号が書き込まれていた。その両脇には合成金属による完璧な区画整理がなされた建物郡。そして天をもふさぐような高さを持つビルディングが競うように立ち並んでいた。
 …空は常に不浄の黒煙に覆われ、太陽など見る事は敵わず、外出には必ず酸素マスクを着用しなければならなかった。

 当然のように動植物の姿など皆無で、虫の1匹さえも衛生上では存在を許されない。過剰な管理体制は人の本来持つ機能さえも奪い去り、何もかもが無理やり消毒されていく。そしていつしか、菌類さえも徹底管理されてしまった世界。些細ささいな細菌が原因で人が死んでしまうほど、弱りきった人類…。

 ……それが当たり前の常識だったというのに、ここは何もかもが違う。
 機械により擬似的ぎじてきに再現されたモノではない、本物の自然というものの匂いがある。

 ランバルト自身でさえも、この”自然”というものを、技術により作られた壁面モニターの映像でしか見た事が無い。……だがここには、「ありのままの自然」という世界が広がっている。映像ではない本物の大地と生命が息づく世界が広がっていた。

 それがこの星の原始の姿だという事は、資料や知識では知ってはいた。
 …しかし、実際に目にした事はなかったのだ。

 いまここにあるのは、自分達姉妹が、魔神が滅ぼした世界とは違う、あまりに原始の星に近い自然豊かな地。人が手を加える事がなくとも、美しく生きている世界である。……これは神が自分達を封じた事で作り上げた地という事だ。

 あれからどれだけの年月が過ぎたのか、正確には知らない。しかし、自分達が存在していた世界が、このように豊かであれば、滅ぼす事はなかったのかもしれない。そう思うと、少々、複雑な気持ちではある。


 ……クーが自然に親しんでいる間、ランバルトは自然というものに戸惑いながらも、当初よりの目的である”姉と妹の探索”を行っていた。さきほど、神殿から人の気配を辿たどったのと同じように姉達を探すのだ。ここからならば、神殿の結界にはばまれる事無く探す事ができる。
 もし、自分よりも先にこの世界に戻っていたならば、魔神特有のエネルギーを感じ取り、居場所を特定できるはず。逆に自分が探す事で、向こうにも察知してもらえれば、と考えている。

 正直に言うと、ランバルトは生命エネルギーの探査はかなり苦手であった。細かに生体を判別するなどという芸当はさっぱりだ。確かに自分は戦う事、破壊する事には群を抜いて優れていたが、自分としてはそれ以外に芸のない魔神だと知っている。

「(さすがに、妹のようにはいかんか…。あの子ならどれだけ距離が離れていようと細かにわかったのだがな…。)」
 ランバルトの妹、魔神三姉妹の末女グロリアは、大地と生命を支配する能力を持っていた。末っ子は戦闘能力こそ低かったが、誰よりも一番、多彩多様になんでもこなせた。生命をいやし、はぐくみ、感じる能力にけていたからだ。
 …グロリアはいつも、姉である私の事を強くてうらやましいと言っていたが、自分としては妹の方が優れていたと思っている。事実、いまこの場にあの子がいれば、力が戻っておらずとも、姉の居場所を簡単に特定できていたはずだ。生命を司る魔神という二つ名は伊達ではない。

 ランバルトの持つ優れた戦闘能力など、こんな時になんの役に立つと言うのか。


 もちろん、駄々をこねても仕方が無い。愛すべき妹は居ない。あの笑顔は遠いどこかの彼方にある。
 不得手ふえてだろうと、ランバルト自身が探査を行う必要があった。



 ……そして3時間ほど経った。

 相変わらず自然とたわむれているクーを横目に、ランバルトは姉妹の存在を探し続けているのだが、どうしても確認する事はできなかった。妹は戦闘能力が低かったから復活が遅い可能性もあったが、姉は自分より先に復活していて当然だと思っていた。姉ならば見つかるはずだと半ば確信していたのである。

 魔神三姉妹の長女、姉トリニトラは、天空と無限を支配する魔神である。
 その二つ名の通り、「太陽がある限り生体エネルギーが無限」という能力を持っていたため、神がもっとも恐れた存在でもあった。多少、傷付こうとも、攻撃にどれだけの力をついやそうとも、その全てにおいて太陽からエネルギーを供給しおぎなえてしまえるのだ。どんな魔法であろうと、常に最大威力で、しかも何度でも行使できる。……それは魔神の中でもあまりに特異であり、強大な力の持ち主であった。

 境界の力という単純な戦闘能力への運用、活用という技術でなら自分の方が高かったが、姉はそれ以上に、余りある程に頭がよく、能力に加えて戦術を組ませたとすれば、戦神たる自分ですら足元にも及ばない。もし戦ったとしても敵わないだろう。(もちろん手を上げるつもりなどないが)

 ……そして、

 なによりも、私や妹を包み込む心の広さと温かさを持っていた。強い心を持っていた。常に私達の事を想ってくれていたのだ。…どんな事をしても姉には届かないし、だれよりも尊敬すべき人である。

 姉さんなら、あの封印を私より先に出る術を考えられたはずなのだ。いくら私が空間を操り、次元さえ跳躍できる力があろうとも、姉の聡明さがあるならば、とっくに打開策を見つけ、外に出ているはずなのだ。


 ……だというのに、その姉も、妹の気配すらも感じられない。
 そして、生き残っているやもしれない他の魔神どもの反応さえなかった。


 もちろん、私達と戦ったあれの反応も。




「(────?)」
「ん? ……??」
 考え事をしていたランバルトと、地面をいじくっていたクーが同時に気づいた。風に乗って届くのはか細い声だ。一人ではなく、複数。しかも大人ではない高域の声。

「声……聞こえたです。…助けてって…」
 クーの優れた聴覚にはすでにその声が届いていたらしい。雑念を持っていたとはいえ、感知が遅れたランバルトも一呼吸遅れてそれを聞き取る。やはり聞こえる。これは子供の声だろう。数は……3人。もう一つ、何か大型の生物のエネルギーを感じる。

「ペンコさんも行くですよ!」
 土だらけの手でランバルトの頭を掴んだクーが急に走り出す! 間違いなく声のする方向へと向っていた。声の主の必死さを感じ、緊急だと知ったのだろう。ランバルトには力がある。だからそれが何であるかをクーよりも先に理解していた。子供が大型動物に追われているのだ。

 大地を疾走しっそうするクーは速い。まだ5〜6歳の子供と同じ体躯たいくだというのに、潜在せんざいするパワーの差か、一般的な大人と大差ない速度で駆けていた。いや、もっと速いかもしれない。さすがに竜の血族というべきか。

 関心する間もなく、見えてきたのは、山側からこちらへと向ってくる3人の、クーと同じくらいの子供達、そして大型で、茶色の毛並みを持つ動物。……ランバルトの知識が正しければあれは熊という動物だ。旧世界の崩壊時に出現した”異形の獣”とは違う、自然の生態系から生まれた動物だったはず。

 魔神の敵とするには貧弱ではあるが、武器を持たない人間には撃退は難しい戦闘能力であったはず。しかも子供であるならば、一転して捕食対象ともなりうる。追われる理由は不明だが、危険な存在であり、状況でもあるのは言うまでもない。


 クーが迷わず、その熊という獰猛どうもうな動物へと向う。どうやら戦うつもりらしい。

 もし誰かが見ていたとしたら、幼いクーが大人の2倍以上もあるような巨大熊に向っていく姿に悲鳴を上げたのかもしれない。…しかし、クーは幼いとはいえ竜の血族なのだ。いかに熊が激昴げきこうしていようとも、竜が下等生物ごときに負けるはずがない。

「そのままコッチに駆けてくるですよ! いまクーがそいつをやっつけてやるです!」
 クーに気がついた子供達は、必死になって走ってくる。しかし熊が走る速度にもう追いつかれそうだった。だが、それでもクーは速かった! 熊の豪腕が子供達を襲う寸前で到達し、そのまま必殺とも言える攻撃を繰り出す。

「お前なんか! どっか、行けーーーーーっ!」
 熊の鋭い鉤爪が、子供達を傷つけようとしたその時! 子供に気を取られていた熊の顔に、クーの思いっきりパンチがHitした!

 双方がすさまじい勢いのままで激突! もちろん、力負けしたのは熊の方である! 100キロル以上はありそうなその巨体が空を舞い、そのまま吹き飛んでいく!
 クーはそのまま着地すると、子供達を背に守るように熊との間に入り、両手を広げて通せんぼするように、大の字に立ちふさがった。同時に、3メールも先でしりもちをついた熊が、殴られた顔の痛みにうめく。

 熊が反撃してくる事はなかった。顔をかばうようにおびえながら巨体をひるがえし、悲鳴にも似た声を上げてながら山のほうへと逃げ帰っていったのだ。その後ろ姿は恐怖の色までふくんでいた。相当に痛かったらしい。

 そんな光景をみて、ランバルトは実に爽快そうかいだった。

「(ほらみろ、クーのパンチは並じゃないのだ)」
 …と日頃、自分がどれだけ苦労しているかが実証されたのが嬉しかった。いやマテ、ここは喜ぶ場面ではないように思うのだが…、まあ、ぶっちゃけ、イイ気分であったのは嘘ではない。


「ん〜〜、いまの…どっかで見たですよ。何だったですかねー? どうぶつ図鑑で見た………たしかモグラだったかなぁ??」
 見当違いの回答を見出していたクーの背中から声がする。それは今助けた子供達。いづれもクーと同じ位の年齢で、男の子が2人と女の子が一人。装飾のない、布を簡単に裁縫さいほうしただけの粗末そまつな服を着た子供が居た。ランバルトが空間跳躍の座標に選んだ地点の、その近くに住む集落しゅうらくの子供なのだろう。世界がこのように自然にあふれているのだとすれば、農耕や狩猟をして暮らす人間達だとわかる。

 やはり、旧世界とは生活そのものが違うようである。今この世界に生きる人間達は、過去の管理世界とはまったく違う、原始的ないとなみを持っているらしい。旧世界での歴史上に存在した、中世という時代に似ていると考えていいのかもしれない。

「あ、あの……きみ…どこの子?」
「へ? あっ!」
 熊を撃退したクー。彼らにとっては、見た事のない女の子だ。そんな不思議な子を目にした彼らの一人が、恐る恐るクーへと問う。ようやく背中に守る子供達に気がついたクー。互いがどういう言葉を切り出していいのかわからず、手探りで会話する。


 しかし、これはクーにとって、何よりも望んでいた出会いでもあった。
 友達が欲しい。一緒に遊べる友達が欲しい。
 外に出たいと思っていた一番の理由。それが友達と遊ぶ事だったからだ。

 クーは今、生まれて初めて父以外の者に、…いや、人間と接した。
 しかも、偶然にも同年代の子供達と出会い、友達となるべき”きっかけ”までもある。


 ランバルトの思惑おもわくがどこにあったかなど関係がなく、クーは今、初めて”人”として生きる事の一歩を踏み出す時をむかえたのだ。これは、クーの人生で最も忘れられない出会いであり、運命が回り始めた瞬間でもあった。




















 ───日が暮れるのは一瞬。本当に瞬きをする間のように過ぎていった。
 クーはその子供達とすぐに仲良くなり、くれないの日差しにほおが染められるまで徹底的に遊んだ。

「クーちゃん! また明日も遊ぼうね! 絶対だよ!」
「僕も僕も!」
「えっと、僕も……。」
 元気な女の子、やんちゃな男の子、そして少し控え目な年下の男の子…。今日初めて出会ったけれど、子供には子供の世界がある。会えばすぐに仲良くなれてしまうものなのだ。クーのお尻に”オタマジャクシ”のような小さな尻尾があろうとも、足に見慣れぬ紋様もんようが浮かんでいたとしても、……そんな事は些細ささいな事であった。何よりも、子供達にとって、クーは熊を倒したヒーローだったのだから。

「うう〜、もっともっと、もーっと遊びたいけど……夜になったら怒られるです。仕方ないですよー。当然、明日も遊ぶです! 絶対絶対絶対の絶対に約束ですよっ!」

 正直言って、まだまだ遊び足りない。でも、それをワガママとして友達にぶつける事はしなかった。クーの年齢なら、自制できないのが当然だと思うだろうが、クーはこうみえて頭が良い。相手が困っている顔をすれば、引き止めるのはよくない事だと理解できる。

 それに、また明日も会えるのだ。
 だから悲しい事なんてない。明日からずっとずっと遊べるのだから、いまだけを我慢すればいい。待ち遠しくとも、これまで我慢してきた事を思えば、大した時間じゃあない。

 手を振ってさようなら。子供達が帰っていく姿に、いつまでも手を振るクーはさびしげな気分ではあったけど、充実した喜びを感じていた。そして、また明日も遊べるという事に期待をふくらませては、満面の笑みを浮かべている。
 友達と遊ぶのは、想像していたよりも、もっと、とてつもなく楽しい事だと知った。自然という素晴らしい世界の中で、夢に見続けた友達と遊ぶ。これほど素敵な事はない。



 さあ、あとは帰るだけだ。
 来たときと同じように、やってきた場所に描かれた円へとペンコを抱いて入るだけ。それだけで戻れる。

 ランバルトも跳躍するための力を残している。戻る事にはなんの問題もない。

 それだけならば問題はないのだ。



 問題は、その後……だ。










「ただいま〜!」
 行きと同じように、クーは部屋へと戻ってきていた。2度目だというのに慣れたもので、部屋に戻った事はとすぐにわかったらしい。きっと空気で判るのだろう。長い間住んでいる家というのは、体が感覚を覚えているものだ。

 だが、そこで待ち受けていたものは違った。普段と違った。
 これまでのさわやかな空気とは全てが違う、憤怒ふんぬと敵意を抱いた視線…。

 水竜バオスクーレがのっそりと、クーの部屋に入ってきた。


「クー……、何処どこへ行っていたんだい?」
「あ…えっと…………。」
 父の表情は見たこともないものだった。悪い事をしてしかった時も、こんなに怖い顔をしているのを見たことがない。……これは、クーには判らない事だったが、その鬼気迫ききせま眼差まなざしはクーに向けられたものではなかった。

「いや、何も言わなくていい。クーはいいんだ、悪くない。…それは後で話そう。」
 バオスクーレは激情をおさえるように、静かにクーへと語りかけた。娘にではなく、それに敵意が向いていたための威圧感だった。それゆえ完全には抑える事はできなかったが、つとめて冷静に対応した。これが彼が娘に向けられる最大限の誠意の表れだったのだ。クーを叱るつもりなどない。クーが悪いわけではないのだから。


「あ……あの、父ちゃん……クーは外に出たかったの! お友達…欲しかったから……。」
 かつてない父の表情に戸惑とまどい、おびえるクーはしどろもどろに答えた。父バオスクーレは口では静かに行っているが、きっと内緒で出かけた事を怒っているのだと思っていたからだ。…もちろん、それも正しい判断ではあったのだが、今の彼の怒りは、それ以上のものへと向けられている。


「クー、ペンコを置いて2階へ…、太陽の間へ行ってなさい。」
「だって…クーは、お友達……欲しいっていうのに……父ちゃんが……。」








「早く行けと行っている!」

 すさまじい威圧と共に、腹の底からの怒鳴り声がクーの部屋に響いた。
 もうバオスクーレは冷静でいる事が限界であったのだ。


 神の怨敵おんが目の前に、…娘のすぐ側にいるとわかれば、冷静でなどいられるはずもない!


「ひっ! ……ああ…、わああああああああっ!!」
 だがそんな事はクーにはわからない。生まれてこれまで、感じた事もない恐怖により、クーがあわてて逃げていく。外に出た事とか、父にだまっていた事とか、そんな事など考える間もなく、恐ろしい父を見て逃げ出すように駆けていく。

 もちろん、ペンコをつかむ間もない。……いや、持ち出す事はできなかっただろう。
 すでにバオスクーレには、それの正体がわかっていたからだ。



 クーが去り、太陽の間へと逃げていく気配をさっしたバオスクーレは、これまでですら抑えていた敵意、それを今、全てき出しにして咆哮ほうこうを上げた!




「魔神め!! キサマッ! 娘に何をしたっ!」

 神殿どころか、周囲の海までもがその力在る咆哮により激震する! まるで神殿そのものを吹き飛ばさん限りの咆哮! 成竜であり、太古の戦いを生き抜いた屈強の竜戦士、水の守護者たる彼が今、最愛の娘に取り入った怨敵に怒りをぶつけたのだ。

「……ふん、気づくのが遅かったな、水竜。」
 そんな怒気など関係なく、ヌイグルミのふりをしていたランバルトが身を起す。こうなる事は承知していた。逆に、日が暮れるまで気づかなかれなかった事の方が不思議だと思ったくらいだ。


「まず、…キサマの質問に答えてやろう。私はクーが外に出たい、という希望を叶えただけだ。」

 ランバルトは平然と言いのけ、床へと着地する。だが、不細工なヌイグルミ姿であろうと、水竜という敵からは視線を外さない。それどころか、バオスクーレにまさるともおとらない射抜くような視線で返してみせる。

 …それにバオスクーレには見えているはずだ。目の前に居るのがヌイグルミなどではなく、その奥に隠された魔神という存在だという事が。ランバルトが持つ尋常じんじょうならざる気配をその身に感じているはずだ。


「邪悪な魔神ごときが何を言うっ!! クーに取り入り何かを企むなどと、この私が許すはずがない!」
「ククク…、その割には気づくのが遅かったな。」
だまれっ! いまこの場で始末させてもらう!」
 バオスクーレは完全に戦闘態勢へと入っていた。それを示すかのように、彼の体を光輝く魔力が取り巻いている。それは徐々にうずし、バオスクーレをおおっていく……。

 そして一気にふくれあがった!
 体を覆ったその光の魔力が彼の体に変化をもたらす。

 クーの部屋いっぱいにまで巨大化した体、それは人の姿はない。爬虫類はちゅうるいを思わせる体躯たいくに、蒼の鱗をもった獣。手足の爪は鉱石すらも切り裂く力を持ち、鋭角な口元に生える牙は金属をも簡単に噛みくだく。
 そして爬虫類とは違う、特徴的な長い首。吐き出す氷の吐息ブレスに絶望的な破壊力を宿すためのものだ。さらに頭には4本の角。獣であり人、生物の王たるその姿がここに顕在けんざいする!

 それは神獣。

 ……竜という名の地上最高生物。生命の頂点に立つべき知恵ある刃である。神に仕える戦士として、魔神と戦い、そして今、過去に勇者が使用した太陽の宝珠を守る力として存在している。

 これがバオスクーレの真の姿であった。彼は日常的に人の姿をしているが、それは娘であるクーのためだ。この神殿が巨大であるのも、この姿になっても問題がないためなのである。
 おおよそ10メールの巨躯。背の羽根を広げ、牙をき、猛禽類もうきんるいがごとく眼光を放つ…。獣類の威嚇いかくともいうべき行動をとるバオスクーレ。いかな生物であろうと、その姿と咆哮ほうこうを向けられたとすれば、発狂してもおかしくない絶大な恐怖と力を見せ付けている。


『魔神よ、これが竜化だ。覚悟するがいい……。』
 強く腹の底から恐怖を感じさせるその声…。それは落ち着きを払い、冷静さを取り戻したかのように聞こえた。しかしそうではない。彼の怒りは頂点にあり、自分でも驚くほどの攻撃性が芽生えていたからだ。…それはもちろん殺意である。

 ランバルトの置かれた状況は絶望的であった。これまでの威圧感さえ凌駕りょうがする圧倒的な戦闘能力。もし、ランバルトが自身の力を取り戻していれば勝てたかもしれない。だが、今のこのヌイグルミという身の貧弱ひんじゃくさからすれば、瞬殺はまぬがれないだろう事は容易よういに想像できた。

 しかしそれでも、ランバルトはおくする事は無い。
 彼女はこの場を切り抜ける手段を持っていた。絶対にくつがえす事の出来ない、生き残るための、たった一つの手を握っていたのである。

『この場で滅してくれる! 二度と復活できないよう、私の娘に危害を加えないように、魂ごと消滅させてくれるっ! 消え去るがいい! 邪悪なる魔神めっ!』
 今にもおそってこようとするバオスクーレ対し、ランバルトはいたって冷静でいた。全てが負けているこの状況下で、彼女はまだ余裕を持っていたのだ。そのまま巨大竜を見上げるようにして、次の言葉をつむぐ…。


「ほほう、お前はよほどクーが心配なのだな。」
『当り前だ!! 私にとって、娘は何よりも大切なものだっ!』


「違うな。お前はクーを大切になどしていない。……お前の愛はいつわり。ただの自己満足だ。」
『……なん……だとっ!?』


「お前がクーに向けるのは、子に対する愛情ではない、強いて言えば愛玩あいがん動物に対するそれと同じものだ。お前のやっている事はペットをでるのと同じだよ。」
『何を馬鹿な! 私はクーを心より愛している! キサマのような下劣げれつな者には理解できんだけだ。』

 バオスクーレの言葉。それはランバルトが予想していたものであった。だからランバルトは笑う。目の前にいるのは竜ではない。神のために従事じゅうじする神獣でもない。ただ愚直ぐちょくなまでに父親だったからだ。

「ならば聞こう。…なぜクーを外へ出してやらなかった? クーは外に出たいと毎日のようにらしていたではないか? なぜかなえてやらなかった?」

『それは外の世界がクーには合わないからだ! 人間は邪悪で粗末そまつな生き物。そんな悪欲のにクーを会わせて何の利益がある!? けがされ、迫害され、不憫ふびんな想いをするのはあの子だろう? それはクーを不幸にし、悲しませるだけだ!』


「ククク…、それが思い上がりだというのだ。それを決めるのはクーではないか。お前はただ、自分がそう思うことを強いているだけだろう?」
『人間と接した私が言うのだ! 何の間違いがある!?』



「親のワガママなどみっともないだけだぞ。……所詮しょせん、お前は自分の事しか考えていないのさ。」

自分の理解のみをクーに強いて、見える範囲でだけの行動を許し、定期的に食事エサを与える。…だが、自由意志を持つのにそれを許さない。お前の自己満足だけを与え続ける…。




それがペットを飼う事とどう違う? 違わないだろうが!?




盲目もうもく的にクーに自分の意志を押し付ける。クーが嫌だと言っても力で抑圧よくあつする。それのどこが愛だというのだ? それのどこが親のする事か。キサマは人間との間に子供を持ちながら、クーには人間と会う事さえ許さない。…最低だな、親としては。」

『キ、キサマの…、戯言ざれごとなど…っ!!』
 反論しようにも、バオスクーレはそれを否定しきる事ができない。それは毎日クーが漏らしていた不満であり、心に引っかかっていた事。クーの幸せのためと自分に言い聞かせながらも、自身を責めていた部分でもあったからだ。
 そして、妻が人間であった事より、人間の全てが悪人でない事も知っている。…ただ、妻の運命をかんがみた時、人間が悪意に満ちたものだと言わざるをなかった。だから彼は、魔神という最悪の敵よりの言葉だというのに、自分が考えている以上に当惑とうわくしてしまった。

 だが、それをランバルトは見逃さない。水竜が反論を打ち出す前に、自らの想いを吐き出していく。




「……私は姉と妹に再び会いたい。いかなる時もささえあって来た二人に、唯一の喜びを分かち合った二人に……。ただ、それだけが願いなのだ。束縛そくばくなど望まない。ただ会えればいい。」







「だから! その目的のためなら何でもする! …そのために画策かくさくさせてもらった。」




 ランバルトはほんの少しだけ力を発現させた。それはバオスクーレを驚愕きょうがくさせるに十分なおどしであった。

『キ……サマッ! 何をしようと…、まさか───っ!』
「そのまさかだ。クーを使わせてもらう。今の私は完全なる復活ではないのでな、キサマと戦うリスクは避けたい。だから利用させてもらう。……私が全力ではないといえ、あの幼子の首をねるなど造作も無いぞ? この意味はわかるだろう?」

 彼女の力は、空間を自在に操作する事だ。自在に空間を開いて閉じる。主に跳躍に使うためのものだが、真に恐ろしいのはそれではない。
 敵の体自体に空間を開けたとしたら、どうなるのか? どんな防御能力を有していたとしても、どれだけ強固な物体だとしても、対象が存在する”空間そのもの”を開くのだから強度など関係がない。どんなものであろうと、一方的に裂いたり、穴を開ける事が出来るのである!

 空間断絶。彼女はこの能力で世界の全てを切り裂いてきた。それは、どんな敵でさえもあらがうことかなわない。
 ……これが、ランバルトを魔神最強たらしめる真相である。



 もしも、クーの首の中心で空間を開けばどうなるか。
 答えを考えるまでもない。空間ごと肉を裂き、首を切り落とす事ができるのである!

 いまの魔力では、この成竜を倒すほどの空間断絶は作れない。しかし、クー程度ならばどうとでもなる。だからランバルトは躊躇ちゅうちょ無く、目的のためにそれを行使した。


『クーを……、クーを盾に取るというのかっ!』
 しかし逆に、バオスクーレは攻撃を躊躇ちゅうちょせざるをえない。何がどうあろうと娘の身に危険が及ぶ事態は避けなければならない。それが命に直結するとなれば、手を出せるわけがないのだ。

『なんと…非道な……。』
 あまりにも口惜くちおしい。憎々しげに吐き捨てるバオスクーレだが、ランバルトはそれを否定した。

「ふふふ……。何を驚いている? これはお前があがめ、うやまう神が行ったのと同じ事なんだよ。奴はな、私達を封じるのにこれと同じ事をしたんだ。…力の無い妹を盾にして、姉と私を封印した。」

「お前のあるじ崇敬すうけいすべき神がやった事だ! キサマもその苦悩を味わえ!!」
 ランバルトの境界の力が神殿の2階”太陽の間”へと流れていた。そこには、父に怯えてふるえるクーがいる。その首には、ランバルトが殺された時、発動するように境界の力が働いている。
 クーを人質にして、自分の安全を確保する。それがランバルトが身を守るための唯一の策だったのだ。

 姉と妹に会うために、彼女はどんな手でも使うと決めた。…だから、幼子だろうと人質にする。それに、相手は敵であり、神の下僕げぼく
 元々は神自身がやった事、その意趣返いしゅがえしをしたところで責められるいわれはない。


 あの神を名乗る男が、かつて行った非道を再現して何が悪いというのか?


『そうか…境界の力…。お前は、魔神…ランバルト……だな?』
「ご名答。今頃気づいても遅いがな。」

「もし、……娘に何かあってみろ……、その魂、百万回粉々してもなお、殺し尽くしてくれるぞ……。」

 憎々にくにくしげにランバルトをにらむバオスクーレ。その体は魔力を解き、元の人間の姿へと戻っていた。
 そしてその言葉も虚勢きょせいである事は誰が見ても明らか。彼は神のしもべである前に、クーの親だった。

 絶対的な忠誠をちかい、崇敬の念をいだく主たる神と、我が子供への愛を比べるなど恐れおおい。…だが、比べてしまった。そしてバオスクーレは、娘を犠牲にしてまで、神の威厳いげんを守りきる事ができなかったのだ…。




「(………さて、問題はここから……だな……。)」
 ここまでは予想通りだとはいえ、ランバルトの勝利は極めて暫定的ざんていてきなものでしかない。残された道は、姉達を見つけ出す、もしくは力を取り戻すという2つの道しか残されていなかった。しかし、こうするより他に道は無いのだ。前に進むには、これしかなかったのだ。


 ここから先、事態がどう動くのか。
 それはランバルトにさえ、わからない事であった────。












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