水竜クーと虹のかけら

第一部・03−01 「それぞれの戦い@ クーの戦い」
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「むきーーー! いま馬鹿にされたですよ! あのヤロー、タダじゃおかないですよ!」
 釣竿つりざおをヘシ折らんばかりのいきおいで、右へ左へとブンブン振りまわすのは蒼髪の少女、水竜の娘クーである。

 いましがたのがした魚にエサだけをうばわれ、まるで猿かと見まがうばかりのいきおいだ。しかし彼女が怒るのも無理はない。実はこれで7回目なのだ。エサだけうばわれ、逃げられ続け……、とうとう爆発したというわけだ。
 しかもエサをうばったその魚は、悠然ゆうぜんとクーの前を泳いでから逃げる。なんてこったい! これを侮辱ぶじょくと受け取らずにいられようか? よもや神とさえまつられた水竜様(のご息女)が魚ごときにナメらようとは…。

 ラファイナ王国の守り神ともあろう者が、雑魚ざこごときに敗北したのである!

「…ま、まあまあ、落ちついてよ、クー。今日みたいに運が悪い時もあるさ。また頑張がんばればいいじゃない。ほら、おやつで持ってきたチョコレート、全部あげるからさ…。」
 そんな彼女をなだめるように言うのは、優しそうな顔立ちをした茶色い髪の少年。見た目ではクーより少しおさなく見える彼は、こまり顔をしつつも、機嫌を直してもらおうと努力どりょくする。

「む、チョコくれるですか? そいつは魅力的な申し出ですよ。許してやらん事もないですよ〜。」
 自分で魚は釣れずとも、食べ物で見事に釣られたクーが、あっさりと怒りを静めようとしていた。…しかしそれを許さない者が一人いる。


「バカモノ! ユニスは何もわかっておらんな! ……これ、クーよ! ここで魚なんぞに竜が負けたとあっては、水竜の威厳いげんそこなわれるぞ? それどころか水竜の存在そのものを馬鹿にされるという事だっ! いかれ! わななけ!」
 少年の機転きてんをさっそくブチこわすような事を言うのは、ペンギンの姿すがたをしたヌイグルミである。ヌイグルミのくせに、確かな意思を持って行動する正体不明の生物?なのだが、実はその中身は、はるかな昔に文明を崩壊ほうかいさせたという伝説の魔神、”海原と境界の魔神ランバルト”という最強に数えられる者だ。

 ただし……いま現在は、どうしようもない程に、─── ただの親バカである。

 そもそも、ランバルトとクーは親でもなければ子でもない、立場だけを見れば敵同士だったはずなのだが、長年共に過ごした事で、情がうつりまくってこの有様ありさまなのである。



「はぐはぐ……むぅ。ランちゃんの言う事も……ばくばく……まあ、一理いちりあるですよ。」

 さて、あくまでマイペースなのがこのおじょうさんだ。ユニスから奪ったチョコを3枚ほど一気に口へとみ、聞いているんだか、いないんだか不明なクーが合いづちを打つ。少なくとも、闘争心という牙など残っているようには見えない。
 ユニスの、これまでの経験からさっするに、こういう…何か好きなモノを食べている時のクーは、90%以上は話を聞いていないと知っている。だけど、チャッカリ聞いている時もあるわけで、食べ終わってからまたあばれられてはこまる。いまのうちにあおり立てるランバルトの怒りも静めておかなくては収拾しゅうしゅうがつかなくなるだろう。


「……ランバルトさん、ここは穏便おんびんにいきましょう。クーはその”魚ごとき”にも腹を立てない心優しい水竜なんですよ。雑魚ざこのする事に大らかでいられるのはいい事です。ゆるしてあげようじゃないですか。」
「ほほぅ、クーが心優しいとはズバリだな! ユニスよ、キサマは見所みどころがあるぞ。はっはっはっ!」

「落ちついてもらえて、なによりです。………はぁ……………、よかった……。」


 クーが怒り出す、ユニスがなだめる。
 しかしランバルトがあおる。またユニスがおさめる。

 …それが最近、いつのまにか出来ていた黄金パターンである。クー達とユニスが出会ってより1カ月の日々が流れた今では、すっかり打ち解けたどころか、ユニスがいなくてはマッタクもって収拾しゅうしゅうがつかない。そんな関係にもなっていた。

 出会ってよりの1週間ほどは、水竜の事を詳しく知らないとは何事だ!…と称して、事あるとごにユニスは正座させられ、説教をされたものだ。ほとんど初対面の頃に、クーの好きな食べ物だの、江戸とかいう旧世界の質問だの、水竜とはオオヨソ関係がない妙な話をされていた。

 ユニスとしては、ラファイナ王国が神と奉る水竜なのだから、かしこまるしかないわけで、全てを真面目に受け答えしていた。そういう性格なわけだし。

 ……いま考えれば、クーも遊び相手が欲しかっただけで、真面目なんだけど実際は遊んでいたのだと理解できるのだけど、それでも最初はそれを理解するまでに苦労したものだ。
 そして今も、目前でチョコをうばい合う二人を見て、少年は年下ながらに「これでいいんだろうか?」という暗澹あんたんたる思いを持ちつつも。手だけを動かし、釣針つりばりをまた湖へと投げ入れる……。

 ちなみにその水竜様は現在、嫌々いやいやながらランバルトとチョコを分け、そして焼き魚とチョコを交互こうごに食べてご満悦まんえつである。ユニスの個人的嗜好しこうからすれば、はげしくやめて欲しい食い合わせであるのだが。



「しかしユニスよ。キサマも毎日ヒマそうだな。我々はともかく、一般人というのは、日中は働いているのが基本なのではないのか? それとも王子という立場は基本的にヒマなのか?」
 ペンギンのランバルトが、クーから半分ほど奪ったチョコを食いながら問う。彼女?の問いは最もなものだ。実際、クー達と出会ってよりのユニスは、毎日、朝から日没までクー達と遊んでいる。

「…ええ、立場としては良くないんですが、……今は、休養中ですから。」

 ユニスはクー達と出会う前まで、一日の全てと言っていい時間を将来の勉強へとついやしていた。それは比喩ひゆではなく、休む間もなく勉学にいそしんでいたのだ。
 しかし、出会った日をさかいに、それまで強いられていた全てを拒否きょひする事にした。それは年齢特有の反抗期はんこうきだからというわけではない。一つの大きな事件を機に、彼は少年という…、世間からすれば未熟みじゅくな年齢であるにも関わらず、自分自身の道を自分で決める事にしたのである。

 ……つまり、したがうだけの自分をやめたのだ。

 もちろん、休養中という彼の言葉も間違いではない。  彼には、その優しい心を休ませるだけの時間が必要だったのだから……。

「ユニス、これウマいですよ! この魚、チョコの味がするですよ! ユニスもこれ食べるですよ。」
「え”……、い、いや、僕は釣るのにいそがしいから……。」
 水竜様といるのは、こういう部分でこまる場合があるのだけれど、息付く間もない勉強の日々とは比べるまでもなくおだやかである。それは彼にとって、なによりの静養せいようでもあるらしい。

 どこまでも晴れ渡るあたたかな空の下、湖の辺でのんびりと過ごす2人と1匹は、今日もまた同じようなおだやかな日を送ろうとしていたのだが、実はこの後、しょうもない戦いがり広げられる事となる……。
















「あ、そうだ。釣りで思い出したけど、クー達がこの湖に来る時、途中で大きな魚を目にした事はない?」
「大きな魚……ですか?」
 始まりはこれ。ユニスがなんとなく振った話だ。クーはひとまず食べ終わったチョコ味魚にご満悦まんえつな様子で、口の周りをきながら答えた。そしてとなりでまだ食べているランバルトと顔を見合わせ、一緒になって首をひねった。

「見ておらんな。」
「ですよー。」
 一緒になって首を横にヒネるという……非常にわかりやすいリアクションで答える二人に、ユニスはまだ話していなかった事を教える事にした。

「こういった湖や河にはね、それぞれに”ヌシ”と呼ばれる魚がいるんだって。大抵は大きな魚で……、つまるところ王様みたいなものかな。そういう魚がいるんだそうだよ。」

 大人しく聞き入る二人。ユニスはそのまま話を続ける…。

「釣り人はね、それを釣り上げると一人前なんだって。」
 なにげなく話したつもりだったわけだが…、聞き入る二人のひとみが、爛々らんらんかがやいている事に気がつかなかった。まさかこれが戦いの始まりだと知るよしもない。



「おおおおおおおおおお、それはGOODではないか! なあ、クーよっ!」
「ですよ!」
 キラキラと瞳をかがやかせたクー達は、たがいに何度もうなづきながら、何が素晴らしいのか納得していた。ユニスにはどうしてこんなによろこんでいるのかわからない。

「水竜の許しもなくボスを名乗る不届き者をひっとららえるのは当然としても、、一人前になれるとは二度おいしいではないか! これはまたとないチャンスだ。」
「ですよ〜。」

「あの……、一人前って言っても釣りの話ですけど…。そりゃあ確かに水竜にことわりもなくヌシなんでしょうけど、魚自身が自称しているわけではないんですし…。」
 また話が変な方へとかたむいている。ユニスがそれを自覚した頃にはもう遅い。

「バカモノ! かりにも竜を差し置いてだな、魚ごときに支配者を名乗らせては世間的にシメシがつかん! クーの威厳いげんすたるではないか! その不届ふとどきなヌシとやらを釣り上げ、王国に跋扈ばっこする愚民ぐみんどもに、水竜ここにありと世間に知らしめるのだ。しかも一人前としてほこれるのだぞ!」

「クーは三人前くらいなら、ペロリと食べれるですよー。」
 …ようするに、ランバルトには可愛いクーが魚ごときに負けているのが気に食わないわけだ。しかし、クーの方はというと、口から滂沱ぼうだのごとくれ流れるヨダレをみればランバルトとは違う目的なのは一目瞭然いちもくりょうぜんである。そもそも、威厳いげんとかまったく無縁むえんな子なわけだし。しかも一人前の意味も間違っているようだし。


「ふふふふ…、いまこそ私の持つ空間制御能力を見せる時が来たようだな…。」
 ランバルトが邪悪な表情をしながら、湖へと視線を移した。

「よし…。では、クーよ! 私がいまからこの湖全体を網目あみめのように粉々にするからな! そしたらヌシとやらの死体を確保するのだ。水竜を差し置きボスを名乗るやからなど───」

「ランちゃんの馬鹿ーーー!」
「ごふっっ!」
 強力なクーのパンチが、ランバルトのほおとらえた。

「…な、なにをするのだ、クーよ。」
「ランちゃんは間違っているですよ!」
 毅然きぜんと立ち上がり、こぶしを振るったクーは太陽を背にしてランバルトの前に立っていた。これぞ水竜の威厳いげんとばかりに、雄々しく勇壮ゆうそうに。

「粉々にしたら食べにくいですよ! クーは串焼きじゃないと嫌ですよ!」
「ガーーーン……。そ、そうか……。私とした事がなんたる失態しったい! 粉々にしてはヌシも雑魚ざこも見分けが付かんではないか!」

「わかってくれればいいですよ! クーはランちゃんならきっと分ってくれると思ったですよ〜。」
「おお〜〜、クーよ、粗忽そこつな私を許しておくれ…。」
 二人は強く強く抱き合いながら熱い涙を流していた。その一方で、ユニスは呆然ぼうぜんとしながら、そんな寸劇すんげきを見ているままである。

「あの…………、釣りの話なんだけど…。」
「ユニスは甘いですよ。ちっとも理解してないですよ。最上級のデカイ魚を食べられるチャンスですよ!」

 クーさんのひとみは熱く燃えたぎり、闘志を宿やどして食欲全開。体は炎であるかのように燃え上がる。そんなんだから、右手ににぎったチョコの残りがどろどろだったりする。
 …ユニスはようやくマズイ事を言ったのに気がついた。もうりがどうとか言っても聞いてくれそうにない。何気なにげなく話したつもりが、みょうな事になってしまった。うまい落しどころを考えなくてはいけない。しかし彼女らの展開てんかいは早かった。

「ふふふ……、いまこそクーの得意な高速スイミングの実力を見せる時が来たですよ…。」
 クーは口のはしを釣り上げ、ニヤリと笑いながら、湖へと視線をうつした。

「よーし。じゃあ、クーはいまからもぐってつかまえてくるですよ! クーが本気を出せば、どんな魚だろうと───」

「クーの馬鹿ーーー!」
「がふっっ!」
 強力なランバルトのパンチが、クーのほおとらえた。

「…な、なにするですか、ランちゃん…。」
「クーは間違っているぞ!」
 毅然きぜんと立ち上がり、こぶしを振るったランバルトは太陽を背にし、クーの前に立っていた。これぞ魔神の威厳いげんとばかりに、雄々しく勇猛ゆうもうに。

「敵をあなどるとは何事だ! ヤツはすでにこの情報を手に入れ、水中にわなを張りめぐらせているかもしれんではないか! いま行けばクーはヤツの術中にはまるかもしれんのだぞ!」
「がーーーん、そ、そうですよ……。クーとした事がなんたる失態! 敵が食べきれない程の大きさかもしれないとあなどっていたですよっ!」

「わかってくれればよい! 私はクーならきっと気付いてくれると思っていたぞ!」
「ランちゃん〜〜、あさはかなクーをしかってくれたですよ〜〜。」
 二人は強く強く抱き合いながら熱い涙を流していた。その一方で、ユニスは呆然ぼうぜんとしながら、またもや寸劇すんげきを見ているままである。

「あの…………、二人共……。口をはさんでいい?」
 友情なんだか愛情なんだかは結構なんだけど、お互いが納得なっとくしている理由がすでにみ合っていないのはツッこんでいいものかと思案しあんするユニス。しかし残念ながら、彼もまだまだクー達の珍妙ちんみょうな行動を100%把握はあくできてはいないのだ。
 (この後、彼女らを把握したとしても、ツッこんではいけないと知るだけなのだが。)


「む、ユニスよ。ほうけている場合ではないぞ。お前の竿さおが引いているではないか?」
「……え、あっ! 本当だ!!」
 色々となやんでいたユニスは、判断する間もなく竿さおに飛びつき、引き上げようとした。だが、それはいつも以上に手応えが強い。…いや、強いなんてもんじゃない。半端はんぱない力で引き寄せられていく!

「ちょ、ちょっとクー! 助けてっ!! もしかしたらヌシかもしれない!」

「おおおお! 飛んで火にいる夏のモシとはこの事ですよ!」
「いや待てクーよ、夏のモシってなんだ? ……虫ではないのか? モシなのか?」
 ユニスの竿さおをクーが支える。それに加えて、背の低いランバルトがユニスのマントを引っ張る。マントは当然、首に巻かれているわけで……。

「ランバルトさん! 首がしまります! 苦しい! 苦しいですって!」
「む、そうか。では私はどこを引っ張れというのだ? やはりここがしかない。」
 そう言っている間にも竿さおはしなり、張り詰めた糸が湖の奥へ奥へと引きこまれるようとしていた。普通の子供ではきっと太刀打たちうちできなかっただろう。しかし、いま竿さおを支えているのはパワフルな水竜様である。

「わっはっはっ! クーから逃げられると思わない事ですよ! 夏のモシ!」
「ぬぅ! やはり夏のモシなのか? 虫ではなく、モシが正しいのか?」

 クーは喜んでいる。ユニスは苦しんでいる。ランバルトは混乱している。

 格闘する事、10分───。
 波立つ湖面こめんより、銀の光を放つ何かが飛びねた。

 魚だ。それもかなりの大物。2メールは軽く超えるのではないかと思われる、超大物である。ハーフとはいえ水竜であるクーが引いているというのに、いまだ強烈きょうれつな引きはおとろえる事がなく、戦う意志を宿やどしているかのよう。

「おおー、すげーですよ〜。」
 そんな力強さにクーは見惚みほれた。デカイとはいえ、ただの魚のくせに竜に抵抗するその気高さのようなものが感じられた。だからというわけではないのだけれど、……クーはこの対等な勝負を、とても面白いと思った。



 プチッ! 

 そう思った瞬間、糸が切れる。
 無理に引きすぎたのと、戦いが長引いたのとで釣り糸の強度が失われてしまったのだ。

 いきなり引く力が消えたたの、一斉にひっくり返る3人。そして針をくわえたままで深い底へともぐっていくヌシ。クー達はそれぞれにどこかを打ったりもしたが、それよりも、のがした獲物えものの大きさを思うと、残念だと思わずにはいられなかった。
















「うきーーー! これで昨日から通算18回目ですよ! 魚のくせにナマイキですよ!」

 翌日。……今日もやっぱり釣れないクーは、暴れ出す前にユニスからクッキーをもらってご満悦まんえつのようである。その上、ユニスが釣った魚を焼いて、まるでオカズであるかのように食べているのだから、相変わらず最悪の食い合わせである。

「クー。紅茶飲む? 持ってきたけど。」
「飲むですよ〜。」
 でも今日のクーは釣れていなくとも機嫌がいい。同じ失敗するにしても、なにやら試行錯誤しこうさくごしている様子で、ただ引っ張ればいいという風でもない。糸を投げるポイントにも気をつけているようだ。……彼女なりに努力しているらしい。

「また昨日みたいなヌシが掛かるといいね。…でも、2日続けては無理かな。」
 ユニスはそう言って、少し気落ちしているのかな?と気遣きづかうのだけれど、当の本人はそういうつもりはないようだった。

「んー、クーはですね〜、昨日のヤツとはまだいたくないですよ。」
「どうして? またアタリが来たら、今度は釣れるかもしれないじゃない?」
 そんなユニスの問いに、クーは楽しそうにニンマリと笑って答えてみせた。

「昨日の勝負はクーの実力が足りなかったですからね。マグレで釣ってもクーの勝ちにはならんですよ。だから、クーに実力がつくまで、来てもらっても困るですよー。」
 いつも食べることばっかり考えているクーではあるが、実は結構、前向きだったりする。ちょっとズレている時もあるけれど、クーはクーなりに真剣なのだ。

「あ、クー! 引いてる引いてる!」
「あややややや! ユ、ユニス、紅茶持ってて! こぼしたらダメですよー!」

 タイミングよく振り上げた竿さお、ぱしゃりと水面より跳ね上がるのは、手のひらサイズの小さい魚。ようやく1匹目を釣り上げた。
 だけど、それはマグレなんかじゃない。クーの実力で釣り上げた大きな成果でもあった。


 いつかはヌシを釣れるといいね。
 どこまでも晴れ渡るあたたかな空の下、ユニスは心からそう願っていた───。




「ところでユニス。ちょいと聞くですよ。」
「どうしたの? クー。」

「考えてみるとですよ? 海の王様というと水竜になるですよ。するってぇと、水竜は今、クーだけなわけだから、つまり海のヌシはクーですか?」
「は? ま、まあ………そうなる……ね。」

「───ふごっ?! なんだとぅ!」
 それを耳にしたのはとなりでグースカと寝ていたランバルト。鼻ちょうちんを割って飛び起き、さけんだ!

「おおおおおおおお、クーよ! お前今まで釣り上げられなくて良かったなぁ…。うかつに釣り糸に食いつけば、そこの魚のように、いまごろ焼きクーになっていたのだぞ!?」
「あわわわ…、釣りとは恐ろしいものですよ。弱肉強食ですよ。」

 ユニスは心の中で、そんな馬鹿な…と思いつつも、いや、クーなら釣り針に食いつきかねない……なんて思い直したのは秘密である。





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