ティータとアガット ファイナルブレイク!

その5 『消える炎』
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BGM:FC「海港都市ルーアン」(サントラ1・23)




────ルーアン市・遊撃士協会

「いや、申し訳ないですのう。娘がとんでもない事をしでかしたようで…、まったくなんとお詫びすればよいのか…。」
 僕らの話を聞き、弱り顔で頭を垂れるロズート=エペランガさん。僕は唖然として声も出ない。ちょっと待ってよ? いま娘って言わなかった?

「おいおい、あんたが悪いんじゃねぇんだからよ、そんなに容易く頭なんて下げんな。……それより娘って本当なのか?」
「…ええ。オアネラは正真正銘、私の娘ですじゃ。昔からそうなんですよ。実力は並以上だというのに、恐ろしい程の悪戯好きでして…。」
 そうんな事を寂しそうに話すロズートさん。アガット先輩が腕組みしながら、口をへの字に曲げて考えている。話からすると、オアネラは本当にこの人の娘さんらしい。う〜ん、そう言われると似ているような似ていないような…。

 しかし、性格はさっぱり違うのは一目瞭然だ。どこから見ても、このお爺ちゃんは普通の人に見える。

「ねえ、ちょっとジャンさん、こっそり教えて欲しいんスけど…。このお爺ちゃん、カルバードからの要人なんスよね? そんなにエライ人なんスか?」
「え? ああ、そうだよ。僕もお会いしたのは初めてだけど、ロズート=エペランガさんといえば、遊撃士協会発足時からずっと足場固めに奔走ほんそうしたメンバーの一人。先駆者といっても過言ではない方なんだよ。」

 そういえば研修の頃に少し習った気がするなぁ。…えーと、今でこそ規模の大きい遊撃士協会だけど、発足当時は人数も少なく、社会的認知度も低かった事から人々からの支持を得るのは大変だったとか。また、遊撃士の規約や選考にも曖昧あいまいな部分があって、全体的な質もイマイチだったそうだ。

 そんな中で、当時のメンバーさんが努力し、遊撃士のあり方を明確にしてくれたおかげで、社会的にも認知される事となり、今日に至るという事なんだそうだ。いやはや、お疲れ様っスね。

 っていうか、僕こんだけ憶えてるのってすごくね? すごい勉強してるって感じじゃない?
 遊撃士ならみんな知ってる? ああ、そりゃあそうか…。

 そんな事を思い出していると、ジャンさんがさらに付け加えた。

「…まあ、先駆者といっても人数もそれなりに居たわけだし、個人名までは知らないのが普通なんだけどね。僕はこういう事務方だから、名前くらいは憶えているんだよ。」
「ふーん、そのオアネラとかいう遊撃士は本当に居るらしい……わね。」
 そう発言したのはエリカ博士。今まで聞く側に回っていた博士は、ようやくオアネラという遊撃士の存在を認めてくれたらしい。しかし、だからといって解決はしてないわけで、ここからどうするかが問題。ロズートさんが謝罪したからと言って、進展したわけでもないんだよね。

「こうなれば、ワシも娘の捕獲に参加させていただきますぞ。身体はもう言う事を聞きませんが、知恵くらいはお貸しできますので。」
「確かに俺達は助かるが…、それでもアンタの娘だろ? 本当にいいのか?」
 おやまぁ、なんとロズートさんがオアネラ捕獲に協力してくれるらしい。そしてそれを気遣うアガット先輩。先輩っていつもは血気盛んだけど、こういう気配りあるんスよね。そういうとこ、エライよね。幼女趣味だけどね。そこんとこ、つくづく残念だよね…。

「ワシももう引退とはいえ、これでも遊撃士ですぞ? 娘とはいえ過ちを見逃すわけにはいきません。」
「なるほど、なら頼むぜ。さっそくだが……。」

 こうして、遊撃士協会ルーアン支部のオアネラ捕獲作戦が開始した。
 昨日までやられっぱなしだったけど、ようやく反撃開始。それに知恵袋とも言えるロズートさんも加わってくれたんだから、今度こそ騙されずに勝負ができそうっス!

「じゃあ、私は宿でティータが起きるのを待ってるわ。とっとと捕まえて頂戴ね。そのオアネラとかいう女。」
 そう言って席を立つエリカ博士。あれ? 横暴が服着て歩いてるというか、会話の主導権握りっぱなしが当然みたいな人なのに、なんだか言葉が少なげだなぁ。どうしたんスかね?

「エリカ。…オアネラは俺が必ず捕まえる。そしてあの女がティータにした事を目の前で謝らせてやる。」
「……まあ、せいぜい頑張るのね。」
 そのまま壊れた扉から出て行く博士は、やけに大人しかった。朝ここに顔を出した時とはエライ違い。お腹でも下したんでしょうか?


「なんだか不気味に静かだったっスね。エリカ博士…。」
「きっとアガットに期待してるって事なんだよ。」
 ジャンさんはまるで自分の事のように喜んでいる。そんなもんなのか、と僕はよくわからずに首をかしげた。

 とにかく!
 僕らは行動を開始したっス!

 アガット先輩と僕はオアネラの目撃情報を再確認するためルーアン市を聞き込み。
 ジャンさんは通常業務に加え、オアネラが使った暗黒の導力魔法「ディアボロス・オー」についての調査。
 そしてロズートさんは、エリカ博士がブッ壊した街の修理費を弁償すると言いだし、市長さんに謝罪に行ったっス。

 …いや、確かにオアネラに問題があったといってもさぁ、実際に壊したのはエリカ博士なわけで…。
 う〜〜〜〜〜ん、いくら親子だからって、ロズートさんは今まで苦労してたんだろうなぁ、としみじみ思うっス。

 しかしそればかりを気にしてはいられない。オアネラがどこかに潜んでいて、いつまた仕掛けてくるか分からないんだから、やっぱり緊張してしまう。しかし、あの女…、一体何を狙っているんだろう??





◆ BGM:FC「行く手をはばむ鋼の床」(サントラ1・18)








 ────同日・夕方 遊撃士協会

「くそっ! あの女の尻尾すら掴めねぇのか! 情けねぇ…!」
「見つかりませんでしたか。なんとも残念です。」
 丸一日を費やした調査が終わった。戻ってきたアガット先輩はなんとも悔しそうに歯噛みしている。ロズートさんからオアネラの行動パターンを色々と聞いたというのに、僕も先輩もひとつの目撃情報すら得られなかったんスよ!

 昨日、オアネラがティータちゃんと接触した時間、…僕が一緒に居たあの時より後に、彼女が街を歩いていたのを見た人がいない。目撃情報がないのよ! あれだけ目立つ格好の、凄まじい美人だというのに、誰も目にしてないなんておかしくない?

 しかもここはルーアン市。勝手知ったる僕のホームグラウンド。街の人のほとんどが顔見知りってくらいの親密度。情報を隠すなんて事あるわけない。もちろん仮拘置所にいるシャムシール団のところにも行って、楽しそうにポーカーしてるのを中断させて聞いてきた。それでも誰も見ていないそうで…。

「どうなってやがる…。俺達は幻でも見たっていうのか?」
 アガット先輩ですら困惑している。いくら僕が新米だからって、これが明らかにオカシイ事くらい分かる。それを再確認するかのようにジャンさんが口をはさんだ。

「確かにルーアンは他の地方都市と違って観光客が多いけれど…、あれだけ目立つ女性が目撃されていないというのは妙だね。だとすれば…、変装でもしているとか?」
「その線は俺が調べた。…ロズートにオアネラの年齢を聞いたら、32歳という話だったからな、それくらいの年齢の観光客全員に会ってきた。もちろん若干の差も考慮して慎重にな。…だがカスリもしねぇ。」

 僕は知っている人しか調べてないから、変装してたら見間違うはずがない。
 つまり、オアネラは…。

「もしかして…、もうこの街にはいないっていう事っスか?」
「どうでしょうか、我が娘とはいえ、そこまでは想像がつきません。」
 ロズート爺さんも困った顔で考え込んでいる。いくら父親だとはいえ、行動範囲まで察知するのは難しいって事だろう。…厄介やっかいな事です。

「あの女、本当にどこに隠れやがったんだ…。」
 先輩の声が心なしか沈んだように聞こえた。ここまで尻尾を掴ませないのは実力の差なのだろうか? あんな女でも、先輩を完全に手玉に取れる程の実力を持っているのは確か。もし降格していなければ、Sクラスにさえなれていただろうスゴ腕。


「見つからないかい? そりゃあ残念だったわね。ケェッヘヘヘヘヘ!」

 その声に、その場にいた全員の心臓が跳ねた。そして全員が弾かれたように2階への階段を見上げる。…すると、僕らが探していたその人物が、オアネラがそこに居た!!

 なんと、この遊撃士協会の2階にいたのだ! いくら外を探しても、これじゃあ見つかるわけがない!!


「テメェ! オアネラぁ!」
 怒気をはらんだアガット先輩は、猛然と突撃を開始!
 まるで打ち出された弾丸であるかのような勢いで階段へと飛びつ────、



 べしゃ!!



「ぐはっ……!」
 なんと、その瞬間にオアネラの詠唱が完成! アガット先輩はその勢いのままアースウォールに激突させられた! 壁に向かって全力疾走して激突したようなもの。本来なら防御技のはずのそれで、逆にダメージを与えたのだ!
 僕もたまに歩いてて柱にぶつかる事がありますが、ハッキリ言いましょう! これ、マジ痛いです!!

 ズルズル…とずり落ちる先輩を見下し、爆笑するオアネラは悠然と階段を上がっていく。だが、僕らが手を貸すまでもなく、先輩は怒りに任せて立ち上がり、背中の重剣を抜いて、前へとかざして突進を再開する! 剣を前にしていれば次のアースウォールがあっても先に感知できる。

 僕とジャンさんは急いでその後を追う。戦場は2階へ、そこにはクルツ先輩が眠っているはずだ。

「くそっ! そこかっ! 逃がすかよ!!」
 クルツ先輩が眠るベッドの横には開かれた窓、そこにはオアネラがいた。まるで物語に出てくる怪盗であるかのように、窓枠の上に悠然と立っている。そこに浮かぶ余裕の笑みは、昨日、浜辺で戦った時のものと寸分の違いも無い。相手を見下しているような女王様スタイルだ。

「何度も言いますが、ここで言う女王様っていうのはアリシア女王と違うっス。そこ、間違えないで欲しいっス。」
「メルツ君、どこに向かって話してるんだい?」
 アガット先輩は冷静さを保ったまま重剣を構えたまま、じりじりと間合いを詰めていく。しかし、オアネラは笑みを崩さない。それは先輩が突撃できない位置にいるからだ。窓の下に設置されたベッドにはクルツ先輩が寝ている。だから、この場を戦場にするわけにもいかないんだ。

「ケッヘッヘッヘッヘ…、それでA級とは片腹痛いわねぇ。とっとと遊撃士やめて土木員にでも転職した方が世の中に貢献できるわよ? いまならいい仕事先を紹介してやろうじゃないの。」

「お前のその言葉が挑発だってのはお見通しなんだよ! これ以上、俺を陥穽かんせいめようって腹だろうが。」
「その割にはアースウォールに命中してたみたいだけど〜?」
「…ケッ!」
 やはり口で勝負してもアガット先輩には勝ち目はないみたい。挑発に乗らないと言いつつ、どんどん深みに落ちていってるようにしか見えない。しかしここで難しい疑問を抱いた! なんとも難しい問題だった。

「ジャンさん! いま先輩が言ってた”陥穽”ってなに?」
「…え? あ、ああ、こういう悪企み的な落とし穴、つまり罠って事だよ。」
 問題は解決した! なんかカッコいいから僕も今度使ってみるっス。あ、すいません、ホントそれだけです。話の内容とか全然関係ないっス。話、進めていただいて結構です。はい。

「ふふ〜ん☆ じゃあ、戦いやすいように上に行きましょうか。決着をつけてあげるわ。」
「上等だっ!」
 オアネラがそのまま近くの凹凸に足をかけ、器用に、そしてあざやかに、この遊撃士協会の天井へと上がった。先輩はそれを追うように窓へと駆け寄り、クルツ先輩を踏まないように上を通って窓の縁に腕をかけた。巨大な重剣は素早く背中へと収め、そのまま勢いで上へと上がる。ちょっとカッコイイな。

「よ、よおし、僕も行くっス!!」
 いよいよ決戦だというアガット先輩の気迫が伝染した僕は、勢いをつけ、同じように窓へと駆け寄る! そして、先輩みたいにカッコよく上がろう……、とニヤけていたところで盛大に転んでしまった!!

 僕のドタマはとんでもない勢いで寝ているクルツ先輩の腹部に命中っ!

「ぐほっ!」
 眠ったままの先輩は、切ない悲鳴を上げていた。…いや、申し訳ないっス。今度は気をつけるっス。

 ようし、もう一度トライだ!

 僕は今度こそ落ち着いて、踏まないように靴を脱いでベッドへと上がり、やっと窓枠に立つ。そして靴をかないといけないので、下を見ないようにしながら懸命に靴を履く…。

「僕も先輩みたいにカッコよく屋根に上がりたいっス…。あれ? 靴ヒモが引っかかって、うまく履けないっスね。」
「メルツ君、危ないよ! 何かにつかまった方が…。」
「大丈夫っス。これでも僕、遊撃士なん────うわあああ!!」

「ぐふぁあっ!」
 またしてもクルツ先輩の上に落ちました。しかも今度は尻から腹へと全力で。…ああ、マジで申し訳ないっス。…っていうか、クルツ先輩これで起きないだなんて、本当に凄い薬を飲まされたんスね。今のその表情見てると、寝ているというより、痛みで気絶しているようにしか見えないんですけど。いやはや、凄い薬っス。

 よ、ようし、とにかくもう一度トライだ!!
 3度目の失敗はマズイと思いながらも、僕は再トライする事にした。

 …そう、僕は先輩のようなカッコイイ動きで屋根に上がって見たかった。どのような犠牲を払おうとも、その主役らしい動きに憧れたのだ。僕のようなサブキャラ以下の”その他大勢”が活躍する場面といったら、もうここしかないように思えたからだ。

「それじゃあ行くっス!」
「いやいやいや、ちょっと待つんだメルツ君。わざわざ窓から出る必要ないんだから、ここはハシゴを使おう。」

「そこをなんとか! 次で成功するっス!」
「…いや、でももう次の失敗でクルツさんも……ほら、アレだから。」

「そこをなんとかっ!」
「いや、もう可哀想だし…。」

「ぐああああああああ!!!」
 そのような不毛な会話を繰り返していた僕達の前、窓の外からアガット先輩の絶叫が響いた! 僕らが言い争っている最中に、オアネラの攻撃を喰らった先輩が屋根から叩き落とされたのだ!! そして僕らが窓を覗くと、なんとか着地し、地面へとつくばるアガット先輩がいた!

 だが、かろうじての着地だったらしく、まだ動けないでいる。2階から落とされて無傷というのはさすが先輩。
 僕とジャンさんは顔を見合わせると、急いで1階へと駆け降りようとした! しかし───

「あのっ! クソ女がああああああ!!」
 1階へと到着した僕らの前に遊撃士協会へと駆け込んでくる、やたら元気なアガット先輩と鉢合はちあわせになった! 先輩は完全に怒りモード全開の様子で、僕らを気にするどころか掻き分けて階段を走り登っていく。またもや、おちょくられたらしい。あの女…、とんでもない悪女だな。

「ぐぉおおうっ!!!」
 その時、またもやクルツ先輩の悲鳴が届いた。どうやらアガット先輩がやってしまったらしい……。
 思いっきり踏んだか、それとも蹴ってしまったのか…。


 僕らは嫌な予感がして、導かれるように2階へと駆け上がる。
 そこには…、沈みゆく夕日に照らされ、まるであかね色の輝きが包み込んでいるかのようなクルツ先輩がいた…。

 悲しげな表情をしたジャンさんが、ゆっくりと、クルツ先輩へと近づき…顔をながめた。
 その表情はとても穏やかだった。長い人生を生きて、充実したような美しくも誇らしい顔をしていた。

 きっと今頃、ここではない違う世界の…綺麗な花畑の近くにある”渡ってはいけない川”を横断したところだろう。
 クルツ先輩は、きっと幸せだったんだろう…。

 僕とジャンさんは、ベッドから落ちた腕をそっと胸の上で組ませてあげた。
 そして言うのだ。

「クルツ先輩、お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした!!」



 ───しかし、戦いはまだまだ続く。





◆ BGM:FC「ピンチ!!」(サントラ1・21)








 日没。

 さきほどまでの太陽の輝きはもうどこにもなく、日差しの消えた海はコールタールのような、どんよりとした黒色で不気味にたゆたっている。すでに戦闘開始から1時間が経過し、夜の世界は訪れていたんだ。

 戦場は変わらず屋根の上。すでに5回ほど落とされたアガット先輩は、何度と無く地面と屋根へという間を行き来しており、いまやその体力も限界に近づいているようだった。

 そしてその瞬間、世界が輝くっ!! 突然襲った目を開けてきられない程の輝きが網膜もうまくを焼き、僕達どころか、先輩も一時的に視力を奪われた。オアネラが放った照明弾を正面から受けたのだ。寸前で直撃は避けられたようだが、それでも動きは格段ににぶくなる。

「くそっ! 何度も何度も…卑怯な手を使いやがって…っ!」
「へぇ、敵が必ずアンタの好ましい条件下で攻めて来るってわけ? そりゃあ面白い冗談だわ。もし相手がアタシLVだったら、もう5回は死んでるって、わかってるのかしらぁ?」

「黙れっ!!」
 回復し切らない視力のまま、重剣を大振りに切りかかるアガット先輩。だけどオアネラには当然のようにカスリもしない。昨日と同じだ。完全にオアネラのペースで戦っている。だとしたら、そろそろあの暗闇魔法だって使ってくるはずだ!
 ハシゴで屋根に登り、その戦いを見守っていた僕とジャンさんは、状況不利におちいっていくアガット先輩を見ている事しか出来ないでいた。

「あっ、そうだジャンさん! ジャンさんはん日中、オアネラの使った暗闇の魔法【ディアボロス・オー】を調べてくれたんスよね? なんか弱点とかなかったんスか!?」

「え? ああ! …そ、そうだった!! それについて分かった事があるんだ! エプスタイン財団に問い合わせたり、軍の導力部隊、遊撃士協会を通じて術者にも幾人かに問い合わせてみた。もちろんラッセル博士にもうかがった。」

「おお! そしたら?」
「ハッキリ言われたよ。そんな魔法はない、って。導力利用の開発は個人単位では難しく、絵に描いたような天才でもなければ無理なんだそうだ。ラッセル博士が言うんだから間違いないよ。」

「……そんな魔法は…ない?」
「個人の特殊能力、もしくは特殊な血族であるとかいうなら別だそうだけど…。とにかくそういう魔法はないそうだ。一番考えられるのはアーティファクトの可能性らしいけど、個人での所有は認められてないしね。」

 僕は再び戦いへと目を移した。そこで…、僕はとんでもない光景を目にする。

「くそおおお! またあの暗闇魔法かっ! ディアなんとかって!」
「ケェヘヘヘヘヘヘ! そうさ! 同じ魔法で叩きのめされる気分はどうだい? 悔しいかい? 恐ろしいかい?」

 アガット先輩が一方的にやられていた。しかもオアネラはあのディアボロス・オーを使っているらしいのだ。
 いや、でも違う。…違うんだっ!

 確かに夜の闇は暗さを増している。だけど、いまだ照明弾の輝きが残っており、二人はその光のおかげで視認する事が出来る。姿が見えるんだ! 暗闇魔法を使っている様子には見えないんだよ!!

「どういう事っスか? 僕らには暗闇なんて見えないのに、なんで先輩には見えてないの…?」
「こ、これは…。」
 困惑する僕達をよそに、アガット先輩は次なる行動に出た。このままやられるつもりはないようだ。

「ふざけやがって! 二度も同じ結果になんぞ、なるかよっ!」
 先輩はそのまま上空へと飛び上がった! Sブレイク【ドラゴンダイブ】だ! うまい! あれなら近距離戦主体のオアネラでも大きなダメージを与えられる。強い光となったアガット先輩は、闘志という輝きを帯びて上空からオアネラを強襲する! この狭い足場の屋根という場所なら、着地点で爆裂すれば先輩の逆転勝ちだ!



 ───だが、アガット先輩はドラゴンダイブを慌てて中止した!!

「なっ! なんだと!?」
 急にアガット先輩が驚きと共に硬直する! そして技を中止し、そのいきおいを殺して着地。その表情は驚愕きょうがくに見開かれており、動揺が見て取れる。

「先輩っ! なんでやめるんスか?! せっかくオアネラに大ダメージを与えられるチャンスなのに!」
 僕は遠目で見える先輩へと叫んだ。だけど、表情には驚きしかなく、僕の声が届いてはいても、聞こえているようには見えない。そんな中、オアネラはただ普通に立っており、なんだかみょうな口調で声を上げる。

「アガットさん…、わ、私を殺すんですか? 私、アガットさんに殺されちゃうんですか?」
「なんで…、ティータが……。ここに…?」
 オアネラが変な話し方をしているだけだというのに、なんで先輩はティータちゃんの名前を出すの? やっぱりオカシイ。どう考えたって見間違えるはずがない。体系だって全然違うはずだ。

「…なんでアガットさんは私に剣を向けてるんですか? なんで…?」
「そんな馬鹿な、俺の目の前にはオアネラが居たはずだ。どうしてティータがここに出てくる!?」

 そして僕は気が付く。先輩がだまされているという事を。あれが……まぼろし、そう! 幻術だという事を!! きっとあれには範囲があるんだ。浜辺で戦った時は僕は近くにいた。だからあの術に巻き込まれた。だけど今はこうして遠くから見ている。だから術にはかからない!

 ディアボロス・オーなんて魔法はなかった。どういう仕組みなのかはしらないけど、最初から幻術だったんだ!

「アガット先輩! そいつは───っ!」
 僕が精一杯に叫ぼうとした時、背後から気配を感じた! 振り向こうとした途端、押さえつけられる!

「おっと、そこまでにしてくださいよ、遊撃士さん。…これは姐さんと、あの旦那の勝負でしょ。」
「リーダー! こっちの兄ちゃんどうするんですか? 俺こういう一般人の扱いは慣れてないですよー。」
「そうっすよリーダー! カッコいいセリフなんか吐いて、ズルイっすよー。」
「うるさいなー。さっきのポーカーで決めただろーがー。」
 聞き覚えのある声、僕はなんとか首を巡らし、そいつらを見る。それは予想通り……。

「うわっ! シャムシール団じゃないっスか! お前ら脱獄したんスか!?」
 牢屋で遊んでたと思っていたシャムシール団は、僕を押さえつけながらも、実に爽やかな笑顔で返答する。

「いやぁ、脱獄とか面倒だったんですけどねー。でも、姐さんに協力したら罪をみ消してくれるって言うもんで…。」
「も、揉み消す…って! そんな事言ったの?!」

「そうですよ。いい姐さんでしょ? いやぁ、感動しちゃしましたよ。だから協力しちゃおうかな、と。それにその方が面白そうだし。」
 こいつら…、こんな事を面白いだなんて何を考えてるんスか。しかもまさか遊撃士のオアネラが悪党と結託するだなんて…。いくら有名な遊撃士だからって、そんな事を…。

「まあ、あそこの牢屋はチャチな鍵でしたから、俺達も少しゆっくりしてから脱獄しようかな〜、なんて思ってました。それに…ねぇ?」
「ちょっと、リーダー、それ言ったら可哀想ですよ〜。」
「だよなー。」
「あ、ごめんな〜、悪気ないんだけどさー。」
 シャムシール団の4人が楽しそうにこちらを見て笑っている。しかも僕に謝ってるし。

「な、なんスか?」
「いや、ここの遊撃士、特にあんた…ザコなんだもん。すげー弱くて脱獄とか簡単すぎちゃって。可哀想で…。」









 す げ ー 弱 く て 、脱 獄 と か 簡 単 す ぎ ち ゃ っ て ?











「ぶははははっはは!!」
「リーダー、それ言ったら悪いって〜。あははははははは!」
「わははははは! だってさー!」
「あ、ごめんな。本当にごめんな、悪気ないんだよ? でも本当なんだよね、これ。あははははは!」











 悪 気 は な い ん だ よ ? で も 本 当 な ん だ よ ね 、 こ れ 。













「あれ? 兄ちゃん怒った? 怒っちゃった?」
「いやでもさぁ、俺達って正直なんだよね。」
「そうそう。おまけに人柄もいいじゃない? だから嘘だけはつけないっていうかさ〜。」
「本当にそうなんだから、可哀想やら面白いやら…。」










「フンガー!!」

「うわあああ! な、なんだぁ!!」
 僕を捕えていたシャムシール団の一人を力だけで弾き飛ばした! そしてその近くにいた一人にビンタを食らわせる!

「いったー! 何すんだ兄ちゃん!」
「それはコッチのセリフっス!!!」
 僕の中で何かが弾けていた。その勢いのまま、近くにいた一人をグーに握った拳でぶん殴る!

「お、おい! 兄ちゃんにはこのメガネの人っていう人質が見えないのかよ? だから大人しくしないと……」
「うるさいっス!」
 とりあえず目の前のコイツらを叩き潰す事だけは決定した。その不用意な発言が僕の中に眠る野獣を目覚めさせてしまった事を理解させてやる。心の底から後悔させてやるっス!

「ちょっとリーダー! この兄ちゃんなんかヤバイよ! 目が尋常じゃないよ!」
「ええい、こうなったら殴って気絶させちまえ!」
「そうだそうだ! 俺達は一度コイツに勝ってるんだし、たたんじまえ!」
「おう、やっちまえー!」

「ふおおおお…、地獄で後悔するっス。僕の英雄伝説の一部に飾ってやるっス!」



 そして今、恐ろしい闘いの幕が切って落とされた。





◆ 








「アガットさん、私を攻撃するの? その剣で…切る…の?」
「ティータ…俺は…。──ぐはっ!」
 先輩は重剣を構える事もなくオアネラに殴られている。しかしそれを気づいてないようで、さきほどまでの気迫は完全に消えていた。そうしている間にも、オアネラの繰り出す次なる一撃が決まる。

「アガット先輩! それ幻っス! 幻術! 騙されちゃダメっスよ!」
 シャムシール団を5秒で始末した僕は、すぐさまジャンさんを助けて先輩へと叫んだ。…だけど、声も届いてないのか、アガット先輩は反撃の意思を見せない。先輩にとって、それだけティータちゃんが大切だからなんだろう。

 こうなったら────。

 僕は屋根の上を駆けた。腰の剣を抜いて距離を詰める。すると、オアネラのいた筈の場所に、どこから見てもティータちゃんがいた! だけど僕は知っている。これはオアネラの幻術だ。卑怯な戦いを仕掛け、悪党とまで結託した遊撃士オアネラ。

 僕は本当に大した事ない。シャムシール団くらいは怒りパワーで倒せるけど、英雄クラスの人となんか比べたら、足元にも及ばない程度の技量しかない。だけど、それでも、僕は遊撃士だから、悪党を脱獄させちゃうような事をする同僚は許さない!

 全力で跳躍し、オアネラへと攻撃を繰り出す!

「僕だって遊撃士っス! なめんなクソババア!」
 飛び上がって闘志を貯めた一撃を振り落とすグラッツスペシャ…ではなく、メルツスペシャル! いくらオアネラでもこの間合いなら避けられるわけがない!

「見つけたぜ、オアネラぁ!! そこかぁ!」
「へっ?」
 突然、アガット先輩の瞳に闘志が宿った! それはどういうわけか僕の方へ向いている…? まさか! 幻術で僕の姿がオアネラにされて…!?

「うおりゃあ!」
「ふぎゃあああああああああああああああ!!」
 先輩の放つ全力の攻撃はあの重剣による強撃。それに飛び込むのは、大海の荒波に翻弄ほんろうされる金魚くらいに無茶がある。まるで相手にされることも無く、僕は叩き飛ばされた。

 ぐは…、なんてこった…。僕、今カッコイイ場面だったのに、このノベルで一番キラキラ輝いてたシーンだったのに、…もう終わりっスか? あくまでも僕に活躍はさせない方向っスか? そんな…あんまり…だ。

「メルツっ! お前なんでそんなところに…。」
「せ、せんぱい…、そいつはオアネラっス。幻術でティータちゃんの姿に見せてるんス!!」
 だけど目的は達成した! 真実さえ伝えられれば、先輩は戦える!


「そうか…、そういう事だったのか。悪いな、メルツ。」
「へへ…、お安い御用っス。こんなのなんでも───おぐぅ……!」

「どうした?」
「いえ、腹が下ったかも…はははは…。」
 胸の下辺りに激痛が走った。アバラが折れているようだというのが分かる。アガット先輩の一撃をモロに喰らったんだし、それくらいは仕方ない。僕は遊撃士だから、これくらい我慢っス。あいたたた…。

 そしてアガット先輩が重剣を構える。ティータちゃんの姿をしたオアネラへと。

 向けられるのは怒りれる闘志。だけどその力はいつものものではなく精彩を欠くものだった。やはり頭ではわかっていても、見た目が違えば全力で戦うのは難しいのかもしれない。僕だって、相手がジャンさんだったり、カルナ姐さんだったら本気では戦えない。


「アガットさん、私です! ティ、ティータです! やめてくださいっ!」
 オアネラは言う。ティータちゃんの姿と声で、そのまま何一つ違わない彼女のままで、そんな事を言う。

「お願いします! アガットさんはこんな事しないはずだって! きっと騙されてるんです!」
「てめぇ、ティータの顔でそんな事を喋るんじゃねぇ!」
 そこでその姿が揺らいでいた。まるで陽炎が立ち昇るかのような感覚で、ティータちゃん姿のオアネラがゆがむ。

「……大切な人を殺さなければ人々を救えないとしたら、お前はどうする? 殺せるのか?」
「ンだと? オアネラ!」
 そこで、オアネラが幻術を解いた。目の前にいたはずのオアネラはなぜか右脇にいた。正真正銘の彼女だ。幻術で位置を変えていたんだろう。
 だけど、それよりも驚いた事に、そこに居たオアネラはいつもと雰囲気がまったく違っていた。その瞳に宿る輝きは、これまでにない真剣で、厳しいもので、まっすぐにアガット先輩へと向けられている。少しの揺らぎもなく、些細ささいなぶれもなく、その問いに答えを求めるために見据みすえている。…ま、まるで別人だ。

「もう一度聞こう。ティータの姿をしているのが私という敵だと認識した時点で、お前はなぜすぐ攻撃しない? 遊撃士が倒すべき敵を前にして攻撃を躊躇ちゅうちょする。その判断が大きな過ちを生む場合もある。」
「……何が言いたい?」

「身喰らう蛇との戦いで、遊撃士が洗脳を受けて敵対したという報告もある。その洗脳された者がもしティータ嬢だった場合、お前はその剣を振り下ろせるのか? …いいや、その洗脳が二度と解けないものだとしたら、お前は彼女を殺してやれるのか?」
「フン…、ティータがそうなると言いたいのか?! フザケンじゃねえ! そんな過程の話になんの意味がある? 俺がテメェの悪趣味な嗜好しこうに付き合うとでも思ってるのかっ! どちらにせよ何が起こったとしても、必ず俺があいつを助ける!! 怪我けがひとつだって負わせねぇ!」

 アガット先輩は握り締めた拳を振りかざし、言い放つ。それが先輩の決意。僕は知っているっス。先輩は妹さんを亡くしてから、いつも努力してたっス。顔も態度も怖いけど、だけど仕事は完璧だし、僕みたいな出来損ないにも一生懸命してくれる。仕事仲間を大切にできる人なんだ。だから、先輩が一番大切にしているティータちゃんだって必ず守るに決まってる。


「では、今お前が叩きのめして、そこに倒れている後輩メルツはなんだというのだ? 彼はお前が見極められなかったせいで負傷した。…その相手がもしティータだったとしたら、お前は平静でいられるのだな? 有り得ない事だからと動揺もしないという事だな?」
「何ほざいてやがる! 自分でやった事も棚に上げて、それで今度は他人を説教か!? けっ、いい身分だな! それで先輩顔かよ! やってる事が伴ってねぇんだよ!!」

 オアネラが腕を組み、そして口の端を釣上げる。

「気に入らないなら来るがいい。…この姿でいいだろう?」
 すると、オアネラはまたしてもティータちゃんの姿へと変わる。寸分変わらぬその姿は、皆が知る彼女そのものだ。そしてその位置も元の左側に戻っている。また幻術を使ったせいで、位置まで変わったという事らしい。

「上等だ!! なら俺がトドメを刺してやるぜ! クソババアぁ!!!」
 今度こそ、アガット先輩に迷いはなかった。剥き出しの闘志はその体から噴出して余りある程の威圧感となっている。まさに獲物を狙う荒ぶる獅子が、全力で強靭な爪を振り下ろさんとするかのような、圧倒的なパワーが先輩を支配している。


「うおああああああああああああああああああ!!!」
 獅子の咆哮ほうこうっ!!! そう錯覚さっかくさせるかのような激烈なる突進! 重剣を振り上げ、膂力りょりょくと遠心力を利用した一撃! もはやこの一撃を止められる者などいない。きっと身喰らう蛇の剣帝だって止められない!!

「お前の失態は、挑発に乗り易い事。そして幻術である事をいつまでも見抜けず突進した事。そして、戦いの経験から今の状況を正確に把握できなかった事───。」
 だけど、ティータちゃんの姿をしたオアネラはまったく避ける事なく冷静に語った。しかもその声は、なぜか右側から聞こえてくる! 幻術を解いたオアネラが喋っていた場所だ!

「黙りやがれぇ!! だぁらあああああああ!!」
 間違いなく、僕が見た中で最大の、最強の斬撃! 獅子の爪はオアネラという標的をとうとう捉えた!! その凄まじい威力は敵を吹き飛ばし、さらにオアネラは屋根の上から放り出される!


 やった! 今度こそクリーンヒットっス!!
 ざまあみろ! わっはははははは!


 いい気味……………あ…れ…………?



「─────な、ん……」
 小さな体が吹き飛んでいた。幻術であるなら解けてもいいはずなのに、なぜか術は解けずに、ティータちゃんの姿のままだった。それは夜の空を舞い、なんの抵抗もなく地面へと落下。小さな音を立てて、そして静かになった。

「最後に忠告してやっただろう? 止めることも見抜く事もできたはず。これは、お前が招いた事だ。」
 屋根にはオアネラが立っていた。厳しい面持ちながらも、それは間違いなくオアネラだった。声のした位置、右側に立っている。


「なんでテメェがそこに…。確かにブチ当てた感触は………あった…はず…。」
「ああ、見事にクリーンヒットさ。だが、生憎と私じゃあない。自分が斬ったモノをよく見てみろ。」

 アガット先輩は何かを感じていたのか、ゆっくりと屋根のはしまで歩き、自身が攻撃したそれに目を凝らした。

「あ……………。」
 身体が震え出すアガット先輩。そして僕もそれを目にする。僕は声すら出すことができなかった。



「ど、う……して………、あそこに………ティータ……が………。」
 まるで痙攣けいれんでもしているかのようにヒザを落とすアガット先輩の横から、オアネラが口調を変えずに答えた。

「私は遊撃士協会査察官オアネラ=エペランガ。現場判断によりティータ=ラッセル嬢と契約を結んだ。それはA級遊撃士アガット=クロスナーに対する抜き打ちの階級適正査察に対し、近親者、および縁者として試験に参加、協力するため。これがその証明書だ。…このサインは本人の同意の元に行われる。そしてこれを行使する場合、同意者は一般人であっても、自身に対する傷害をいとわない事が決められている。」

 あまりのショックで動くことも出来ない。一番に飛び込むはずのアガット先輩は立つ事もままならず、ガクガクと目に見えて分かるほど、震えながらその光景を見つめていた。

「彼女は快諾かいだくしてくれたよ。お前の能力判定に自分が役立つのなら、とな。彼女にはクルツとは違う睡眠薬を与えてあってな。気づかれないよう、先ほどまで眠っていてもらったんだ。」
 眼下に人が集まり、動かないティータちゃんが救助されていく。それがまるで別世界での出来事であるかのように動いていく。しかしオアネラは気にする事もなく続けた。


「クルツにも昔、似たような事をしたのでな、口止めはしてあったが、上級者として頼られる前に黙ってもらった。あれは表面上は出来る奴だが存外、抜けているからな。ミスを犯す可能性を排除したというわけだ。……ここまでの流れは理解できたか?」


「しかし、お前のような出来損ないがA級に昇格というのは、やはり選考基準が甘かったようだ。リベル=アーク関連の大任を果たしたとはいえ、それ一つの功績だけで階級を押し上げる今の制度上にも問題はあるな。」

「…なんにせよ、お前にA級の資格は無い事はこれまでの行動とその結果により明白。査察官特権を発令し、本日この時刻をって降格処分を言い渡す。これまでの功績を考慮したとしても、C級で相応だろう。異存ないな?」
「…………………………。」

 アガット先輩は動かない。いや、動けない。呼吸をする事すら苦しげだった。



「最後に一つ教えてやる。幻とは己の固定概念と現実事象の差異から成るもの。その殻が見極められず、また、破れない者にA級を名乗る資格は無い。お前は自身の作り出した常識という名の妄想に負けたのだ。そして大切なモノを自ら傷つけた。それがこの結果だ。」

 そう述べると、オアネラはその場を去った。後に残されたのは途方に暮れた僕と、唖然としたままのジャンさん。  そして、闘志という名の熱くたぎる炎を完全に失ったアガット先輩だった………。








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