暴走あねらす

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「東方人街! ドロシーさん、それ本当ですか?!」
「うん、とぉ〜っても美味しかったよ〜。」

 その返答にガッツポーズをとるアネラスは、今まさに夢のような気分でいた。だって、カルバードにある「抹茶味のアイスクリーム」が美味しいなどと聞かされたら、これはもう現地の味を確認しなくちゃいけないだろう。

「あー、アネラスちゃん。でもね、ナイアル先輩が言うには、いま東方人街は猟兵団とかいう悪い人達が暴れてるんだって。だから、今行くのはちょっと待っ───、あれ?」
 ドロシーは周囲をキョロキョロと見回すと、いまの今まで居たはずの可愛い黄色のリボンをつけた少女を探した。しかし、まるで消えてしまったかのように姿はない。

「やったぁ! 今日も明日もせっかくの連休もらっちゃったんだもん。この期を逃したらもう食べられないかもしれないよ。ああ、空の女神よ、抹茶アイスクリーム、期待してます〜。」
 ……などと浮かれつつ、アネラスは一直線に空港へと足を向けていた。行く先は当然、カルバード共和国・東方人街だ。これだけは引けない。だって彼女は、三度のご飯よりもアイスクリームが大好きなのだから。

 遊撃士アネラス・エルフィード。彼女はある意味、ドロシーよりもマイペースな娘であった。特にアイスクリームへの執着は並大抵ではない。剣の修行をし、その『理』を模索している彼女だが、きっとアイスのことならすでに理に達しているのだろう。そんな奴はこの広いゼムリア大陸を探しても二人とおるまい。



 ─── 数時間後……カルバード・東方人街

「ええー! それ、本当ですかキリカさん! ま、まさかクロスベル自治州には、メロンヨーグルトアイスが!! そんなの初めて聞きましたよ!」

 カルバード情報機関《ロックスミス》を代表して、顔なじみであり、元遊撃士仲間として顔を出してくれたキリカは、あきれた顔で彼女を迎えた。
 アネラスは、街でアイス屋前で騒ぎを起していた猟兵を一網打尽にしていたのだ。その時の凄まじいパワーは、アイス屋以外の破壊された家屋見れば明らかである。

「……アネラス、手配中の猟兵を捕まえたのには感謝するけれど、……結局何しにここへ、来たの?」
「はっ! 未知のアイスクリームを探索しにきました!」
 悪びれもなく、敬礼して答えて見せる彼女の瞳は、戦闘とは違う異様な気迫が込められていた。ここまでの闘志を抱きながら嘘は言えまい。彼女は正真正銘、アイス探しをしに、はるばるカルバードまでやって来たのだ。

「……まったく、休みだからいいのだけれど…。それで、もう帰るのね?」
「いいえ! それが困った事になりました! クロスベル自治州でメロンヨーグルトアイスが新発売という話題を耳にしまして、是非とも真実を確かめて来ませんといけません! ……そこで、キリカさん。遊撃士のお仕事でなら出かけられますので…、なんかお仕事ないでしょうか?」

 どういうわけか、闘志が増していた。
 しかも動機がめちゃめちゃ不純だった。

 キリカは嘆息し、もう何を言ってもだめだ、という事を長い付き合いで悟っている。ならば、これを利用させていただこう。むしろ、このまま監督もせずに好き放題やらせては、どんな暴走劇を見せるかわかったものではない。放置すればもう一つの故郷たるリベールの名に傷が付く。

「じゃあ、カルバード共和国の一組織として、遊撃士アネラスに依頼します。いま倒した猟兵団の残党がクロスベル自治州にいるようなの。カルバード国内に潜伏していた組織が他国で、特にクロスベルで問題を起すのは時期としてよくないわ。彼らの情報を集めてきてちょうだい。」
「イエッサー! ごちそうさまです!」


 ─── 数時間後……クロスベル自治州・遊撃士協会。

「カルバードよりの猟兵団、これにて殲滅完了です! では!」
 アネラスはそれだけを言うと、遊撃士協会を飛び出した。後ろから大声で引き止めるような声がするが、聞かなかった事にする。それどころではない!

「あれ、ぬいぐるみのお姉さん…。なんで……こんなトコロにいるの? もしかして、エステルに言われてレンを捕まえに来たの!?」
「あ〜! レンちゃんだ〜〜! うう〜ん、今日もプリティだよぉ〜。」
 たまたま、そこで出くわしたのは、いささか表情の固いレンであった。《身喰らう蛇》執行者でありながら、《レクルスの方石》事件で友達になった、あの幼い少女である。

「答えて! そうでしょ!? レンを捕まえに───」
「ねぇ、ねぇ、レンちゃんも食べに来たの? メロンヨーグルトアイス? やっぱりねー、そうだよね〜。」
 まるでレンの話なんか聞いちゃいない。
 頬を赤らめ、まるで恋する乙女であるかのように、アネラスは夢の世界に旅立っていた。元々は敵対する組織の人間であるというのに、彼女はそんな事をすっかり忘れている。……いや、そんな事、どうでもいいのだろう。だって、アネラスから見れば、レンはあまりにも可愛い。だったら、可愛い事は正義なのだ。お友達なのだ。

「……………メ、メロンヨーグルト???」
「そーだよ! 探してるんだよ〜、もう想像しただけで泣いちゃいそうだよー。」
 クロスベルに到着したばかりのレンは、まったく状況がつかめずに困惑していた。天才と称される彼女でさえ、これはまったく予想にない展開だったからである。

「もしかして、本当にアイス食べに来ただけ? エステル達と……、う〜ん、やっぱりお姉さんの場合、嘘ついてない気がする。」
 レンは複雑な表情のまま、拍子抜けしたように、アネラスの顔を覗きこんだ。エステル達がレンを捕まえる約束をした事までは知らない彼女は、たまたま知り合ったお友達を相手に、アイスの美味しさを語ることしか頭になかった。

「は〜、なんだか調子狂っちゃうわ。……じゃあ、お姉さんに教えてあげる。レマン自治州にはもう行ったかしら? レンも一度だけ食べたんだけど、あそこの空港で売ってるオリジナルミントアイスはなかなかの味だったわ。」
「お、お、おりじなる・みんと……。」

「でも、あそこは今、結社が手を伸ばしているせいもあって、不穏な空気が流れてるわ。星杯騎士団も関わっているようだから、ひょっとしたら面白い事になるかもしれないわね。」
「ふふふ……、レンちゃん、それなら大丈夫! なんたってオリジナルミントだから!」
「……さすがのレンも、さっぱり判らないわ。侮りがたしね、このお姉さん。」

 こうして、アネラスは、各地の悪党や騒ぎを撃破しながら、次なる地へと旅立つのであった……。
 彼女の旅はまだまだ続く…らしい。







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